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セミナー「21世紀における大量破壊兵器による挑戦」での神余駐独日本国大使講演講演

(2010年3月17日、於独連邦安全保障政策アカデミー)


 この由緒ある連邦安全保障アカデミーで講演する機会を与えられたことに感謝。

 このセミナーには、WMDや安全保障に関する多くの優れた専門家が参加しておられる。私からは、日本を含む東アジアの観点からこのテーマについて私見を交えて論じ、日独協力のあり方について述べたい。

 

 1月14日、ヴェスターヴェレ外相が就任後初めてのアジア訪問を行った。14日に日本、15日に中国を訪問した。

 ヴェ外相は訪日中、日独は価値を共有するパートナーであることを強調した。日本としても同様に考えるが、この場合の価値の中には自由、民主主義、人権以外に、核なき世界を目指すこと、軍事大国にならないといった安全保障に関する価値観も含まれる。価値で結ばれた日独は、多極化する世界の中で、国際社会の諸課題に対して積極的に貢献しなければならないと考える。

  両外相は、アフガニスタンや気候変動の他、軍縮・不拡散の分野で一層協力していくことで一致した。大量破壊兵器、就中核兵器の軍縮・不拡散は、より安全な世界を作っていく上での有力な手段である。日独両国は第二次世界大戦後、核を持たない政策を取り、NPTを締結し、非核兵器国たることを選択した。日独ほどの経済大国が非核兵器国として平和に貢献する決意をしたことは、国際的にもモラル・パワーとしての価値を有する。ある意味では日独は戦後、途上国を含む世界中の国が目指すべきモデルの役割を果たしてきた。核を持たずとも、軍事大国と成らずとも経済大国になることは可能、平和に貢献することは可能という日独モデルは今後も十分に踏襲可能であると考える。また、両国が、共に非核兵器国として国連安保理に常時参加することとなれば、グローバル・ガバナンスを強化し、国連安保理の性格を変えるとともに、その正統性を高める価値がある。安保理改革は、少なくとも日本からすればその様な観点からも取組が行われている。

 

 グローバルな安全保障状況については、最近、大きな進展があった。昨年4月、オバマ米大統領がプラハで、核なき世界を追求するとの演説を行った。これは、現職の米国大統領が率先して進めていく意向を有していることを示した意味で重要であった。また、米による「リセット」政策を受け、米露間のSTART後継条約にかかる交渉が進展している。これが米露間の戦略関係を規定する枠組みとして早急に合意され、批准にいたることを期待する。

  一方メドヴェージェフ露大統領は、一昨年、欧州安全保障に関する新たな提案を行い、昨年、具体的な条約案を提示した。しかし、ロシアには核を巡る政策については、かつて宣言した先制不使用を元に戻し、本年2月に至り、通常兵器による場合にも核兵器で対応する可能性のあること、そして先制的(präventiv)に使用することもあることを示唆している。かつての米国ブッシュ政権のドクトリンのような方針に回帰していることは、看過できないことである。近く行われる米国の新しいNPR(核戦略態勢見直し)の発表を踏まえ、NATOは本年中に新戦略概念を策定すると見込まれるが、その中で右欧州安全保障条約提案及びロシアの核戦略の変更を含め、ロシアとのパートナーシップのあり方につき新たに定義がなされるであろう。核及び通常兵器を巡る戦略に関し、新たな冷戦思考が生じないことを期待する。「アジアと欧州の安全保障は不可分」という考えは、現在でも通用するものであり、その観点からNATOの新戦略概念を関心をもって見ている。

 

 次に、東アジアの安全保障状況を概観したい。

  冷戦終了後の状況を見ると、まずロシアが軍事大国から後退したことが挙げられる。もっとも、近年同国はアジアでの軍事プレゼンスを強化しつつあるとの指摘もある。また、中国が経済のみならず、軍事的にも台頭し、昨年まで20年以上連続して、毎年10%以上軍事費を増加させてきた(今年は7.5%と初めて一桁台に低下)。しかもその内容には必ずしも透明性がなく通常西側では軍事費としてカウントされるR&D等は含まれていないため、実際の軍事費の総額は公表された数字の2~3倍との評価もある。中国の核開発は、ロシアを模範として始まり、また60年代にあらゆる資源を投入して進められた。中国の核弾頭と運搬手段の数は、80年代は200発台で推移していたが、90年代以降300~400に増加している。長距離ミサイルの数が比較的少ない一方、射程1500km以下の短・中距離ミサイルが多い。このことからは、核ミサイル戦力が日本や台湾を照準にしていることが伺える。

  また、中国は、空母を建設したり、海軍のブルー・オーシャン・ネイビー化を図っており、太平洋やインド洋でのフリーハンド獲得を追求していると思われる。最近では中国の潜水艦が米軍空母を追跡するという軍事行動が注目された。地政学的には、インド洋を巡る中国とインドの海軍の増強ならびに海洋支配力競争も顕著である。この地域には、米・中・インドという核兵器国が海上輸送路を巡る海の覇権競争を行っている。陸上では核保有国のインドとパキスタンは対立を秘めている。また、パキスタンと国境を接するイランの核問題解決の見通しは、依然混沌としている。

  朝鮮半島は分裂したままであり、北朝鮮は核兵器とミサイルの開発を続けている。北朝鮮は、90年代にプルトニウム型核兵器の開発が問題となり、米朝枠組合意でこれを廃棄したことになっていたが、秘密裏にウラン型の開発を進めていたことが2002年に発覚。以降の第2次核危機については、六者会合で議論されている。北朝鮮は、健康不安説もある金正日体制等、内政上の不安定も懸念される。

  欧州における「凍結された」紛争とは対照的に、アジアにおいては「凍結されていない紛争」が歴然としている。北朝鮮や台湾海峡のほか、スプラトリー諸島を巡っても争いが起こりうる。中国の旺盛な資源獲得の意欲は、アフリカのみならず尖閣諸島という日本近隣の地域での海洋石油資源獲得行動においても明白である。このようにアジアは経済面では世界の成長センターとして大きな牽引役を果たしているが、同様に軍事・安全保障面でも核兵器国である米・中・印が覇権を競っており、核を持つ国(パキスタン、北朝鮮)が対立を秘め、核計画についての意図が疑われる国(イラン)が存在するなど地政学的安全保障環境は深刻な状況にある。そのような中で日米安保条約と米軍の軍事プレゼンスは、これまでアジア太平洋地域の平和と安定を確保する上での鍵であったし、今後もそうあり続けるであろう。その意味で米国の拡大抑止力は、維持される必要がある。

 

  それでは、アジアをより安全な地域にするための方途は何であろうか。オバマ大統領演説に言う「核なき世界」をアジアでも進展させることはできるだろうか。我々は、近く公表される米国のNPRがアジアについてどのように記述するかに注目している。一般に、安全を確保するためには総合的な抑止力のレベルを維持しなければならない。また、その際、安全保障に対するリスク要因を考慮しなければならない。総合的な抑止力とは、核兵器と通常兵器による抑止力の総体であるが、全体的な抑止力のレベルを下げないまま核の役割を減らすためには、①地域全体の政治的・軍事的緊張のレベルを下げること、②より信頼性のある通常兵力によって抑止のレベルを維持すること、または③その両方、が必要であろう。このうち②は、近隣の国に軍拡と受け止められないような通常兵力の近代化が必要であるため、可能ではあるが容易ではない。その場合、①の努力が益々重要になってくると思われる。

  以下に私見を交え、具体的に方策を述べてみたい。

 

  まず第一に全ての核兵器国(NPT上の)及び核保有国の核戦力を現状で凍結し、増やさないこと。特にNPT上の核兵器国(米・露のみならず、英・仏及び中も)は、NPT条約第6条の核軍縮義務を誠実に履行する必要があり、この点については気候変動枠組み条約(リオ条約)や京都議定書のような「共通だが差異のある責任」(“common but differentiated responsibility”)が認められるべきではなく、平等に義務を果たす必要がある。NPT枠外の核保有国であるインドもパキスタンも最低限現状凍結が必要である。

  第二に、日豪外相が既に2月21日に明らかにしたように、NPT条約において核兵器を持たない国に対して核兵器を使用しないという安全保障(Negative Security Assurance: NSA)の実効性を高めること、そして、核兵器保有の目的を核兵器使用の抑止のみに限定するといった考え方を検討し、これらの点についての議論を深めていくエクササイズを少なくとも専門家レベルで行うこと。その際、アジアにおいては、特にdestabilizingな弾道ミサイルの問題や通常兵力の分野での兵力制限・削減及び信頼醸成の必要性についても焦点が当てられると更に有意義であろう。

  第三に、西太平洋、南シナ海、インド洋等における主要国の海上輸送路を巡る利害関係を調整するための話合いを進める。これにより、アジアにおける地域のパワーバランスを実現する。

  第四に、北朝鮮とイランの核問題について、これらの国がなぜ核武装を志向するのかに関する根本的な問題を除去するよう国際的な努力を強化する(対話と圧力というデュアルトラック・アプローチ以外に核兵器を持つことを余儀なくさせる国際的な孤立と絶望の問題にどう国際社会が取り組むか)。

  第五に、安保理常任理事国イコール核兵器国という特異な状態から安保理を解放し、特に非核兵器国の常任、非常任理事国を増やすように安保理改革を実現する。そのために、昨年9月に、オバマ大統領の提案により史上初めて核軍縮と不拡散について議論するための安保理サミットが開かれたが、これに関する安保理の責任と権限(安保理は軍備規制の方式を確立するための計画を作成する責任を有するという国連憲章第26条の規程)を恒常的に行使するように改革する必要がある。

 

  最後に大量破壊兵器の挑戦に対する日独の役割について述べたい。

  日独は、アジア及び欧州における責任ある非核の経済大国として、欧州とアジアに目を配りつつ、グローバルな安全保障の面での協力を強化する必要がある。特に本年は、グローバル・ゼロ前進のための重要な節目の年である。

  第一に、5月に行われるNPT運用検討会議を成功させることが重要である。現在、日本と豪州は、日豪政府が設立し、独のクラウス・ナウマン元連邦軍総監も参加したICNNDの議論と報告書を基に、運用検討会議に向けての具体的なパッケージを作成中であるが、これに独が参加することを期待する。なお、ICNND報告書に対する独関係者の反応は一様にポジティブなもので、日独豪で共同歩調がとれるものとみている。

  第二に、イラン及び北朝鮮の核問題の解決に努力することが重要である。独はイラン核問題に関するEU3+3のメンバーとして重要な役割を果たしている。日本も、独自の立場からイランに働きかけている。北朝鮮を巡っては6者協議の場が中心であるが、国連安保理の場での対応や安保理制裁の履行が重要である。独はEUにおける対北朝鮮制裁強化の議論をリードしており、我々はこれを評価している。外交を通じた解決を実現するよう、日独は、それぞれ参加している交渉フォーラムを超えて外交努力を強化する必要がある。

  第三に、そしてこれが最も重要であるが、21世紀のいわゆる「第二次核時代」においては、広島と長崎に次いで、核が再度使われることがあってはならない。日独はそのためにあらゆる努力を傾けるべきである。核が使われることを防ぐためには抑止論があり、核抑止は核の使用のみならず戦争そのものを抑止する機能を有しているとの見方もあるが、それと同様あるいはそれ以上に重要なのは、核の使用は人類にとって絶対に行ってはならないタブーであるとの道徳的・倫理的な義務感を普遍化し、強化することである。特に日本には唯一の被爆国として、それを行う道義的な責任がある。

 

 在ベルリン日本大使館は、ヒロシマ通りにある。この名前は、市民活動の高まりを受け、ベルリンのティアガルテン区議会によって付けられたものであり、私も大変誇りに思っている。そして昨年8月5日には公邸に、独の4賢人の一人であるエゴン・バール元大臣をお招きし、「平和のためのコンサート」を開催した。今年も8月にヒロシマ通りの日本大使館から、軍縮に向けた訴えを発し続けていきたい。

  日独両外相が価値のパートナーとして軍縮・不拡散分野での協力強化に合意したことは大きな前進であった。私もそのような日独共通の努力の中で駐独日本大使として、ささやかな貢献ができればと思っている。

(了)


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