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21.7.2003

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ドイツの大学改革


 ドイツではいま大学改革が進められており, 2 0 0 2 年2 月には新高等教育大綱法が施行された。改革の目玉として助教授(ユーニオア・プロフェッサー,ユーニオアはジュニアの意味)のポストが新設され,ドイツ大学制度の歴史的転換期となっている。私はこの 制度の第一号としてダルムシュタット工科大で教鞭をとる機会に恵まれた。

 ドイツの大学教授と聞いて,皆さんはどのような人物を想像されるだろうか? 若い研究者ではなく,5 0 歳程度の人を想像されたのではと思われる。ドイツで教授就任の平均年齢は4 0 歳ごろと言われている。これは,ドイツで大学教授を目指す研究者は博士号を取った後さらに十分な研究実績を上げ,大学教授資格(ハビリタツィオーン)を取る必要があるためだ。

 ドイツの大学教授資格は,基礎学問の分野では上手く機能し,歴史的に多くの優秀な教授を輩出してきた。しかし一方で,民間企業研究所の高度化や研究サイクルの短期化により,ゆったりとした大学教授資格制度は,古い研究スタイルと考える意見も出てきた。実際,設備も給料も良い民間企業での研究職や若くして独自の研究費を持つことができる米国の大学教授職に人気を奪われ,ドイツで大学教授を目指す研究者は減少に向かい,大学研究の空 洞化が問題となっていた。

 このような状況を踏まえ,博士号を取得して間もない若手研究者( 3 5 歳以下)に教授並みの資格を与える制度をスタートさせることになった。これがユーニオア・プロフェッサー制度だ。この助教授には,教授会への参加,研究費の申請,博士論文の主査,秘書の補助など,教授と同様の権利が与えられた。それと同時に,最低週6 時間の講義,修士および博士論文の指導,研究室の予算管理,学部運営など,教授と同等の義務も持つことになった。

 助教授が通常の教授と一点異なるのは最大6 年の任期制であることだ。実際は当初3 年の成果により6 年在籍できるかが判断される。講義などの教育面,論文数などの研究面,研究費の取得状況などで総合的に評価されることになる。また,終身在職権(テニュア・トラック)のオプションを助教授に与えるようにも規定されている。

 ユーニオア・プロフェッサー制度は始まったばかりで,どの大学も手探りの状態だ。細かい規則も明確でない。この制度は米国の助教授制度をモデルにしたと言われている。ドイツの風土に定着し,実りある成果が出るかどうかは,まだ数年の経過を見る必要があるだろう。
 
 さて,最後になってしまったが,私の研究室を紹介しよう。ダルムシュタット工科大は1 8 2 6 年に創立され,現在はドイツ最大規模の総合技術大学の1つとして知られる。私の研究室「暗号プロトコル」は2 0 0 2 年7 月から情報科学部に所属し,情報セキュリティー 特に暗号理論の研究を行っている。

 助教授として3 年で成果を出す必要があるため,最初の年は通常の研究活動の他に積極的に研究費の獲得に走り回った。ドイツ政府の研究プロジェクトや民間企業との共同研究などで,現在5 人の助手を雇うことができた。情報セキュリティーの研究はドイツでも非常に注目されている分野だ。今後も研究プロジェクトを立ち上げ,研究室を拡大していきたい。

(2003年11月 ダルムシュタット工科大学情報科学部ユーニオアプロフェッサー・高木 剛)



著者(後列左から2 番目)と研究室のメンバー。

*この文章は、日経サイエンス2004年1月号に掲載されたものを転載したものです。