大使館案内
令和4年8月12日
ようこそ、ホームページへ!
ドイツ在住の皆様、残暑お見舞い申し上げます。
今年は暑い夏の中、コロナの新規感染者数が高止まりしていますが、2年以上ぶりに正常化しつつある欧州では、ゆっくり夏休みを過ごされた方も多いのではないかと思います。日本ではコロナ新規感染者数は引き続き厳しい状況が続いておりますが、ドイツではこのようにコロナ感染予防規制後の正常化に向かいつつある一方で、今年はロシアのウクライナ侵攻という予想もしなかった深刻な事態が進行中で、エネルギー供給等で今後の状況も懸念されます。ここでは年初から7月末までの日独間の動きを中心に振り返ってみたいと思います。
1.今年前半の全体像
もともと、私ども大使館にとって今年は、昨年12月に誕生したばかりの前例のない三党連立政権の政権運営に注目しつつ、ドイツがG7議長国ということで、日本からの閣僚受け入れ等で忙しい日々となることが予想されていました。新政権は主な課題として気候変動とエネルギー転換、デジタル化の推進に取り組むことを目指していましたが、発足直後から、コロナの新規感染者数の高まりに直面し、ワクチン接種の義務化や感染防止策の強化か緩和かを巡り難しい判断を迫られていました。しかし、コロナの新規感染者数が減少に傾き状況が落ち着く間もなく、2月24日、ロシアがウクライナへの侵略を開始し、その後はこの問題への対応を巡って激動の年となってしまいました。
2月の開戦直前のミュンヘン安保会議の際に、急遽G7外相会合が開催されることになり、私ども大使館関係者も多くがミュンヘンに出張し、ミュンヘン総領事館と共に準備に携わりましたが、開戦後もオンラインを含め頻繁にG7の首脳、閣僚会合が開催され、3月24日には臨時のG7首脳会議がブリュッセルでEU、NATO首脳会合の際に開催され、岸田総理もロシアの領空を飛べなくなったために通常よりも長い飛行時間を要するにも拘わらず、参加されました。その後、5月10日のG7デジタル大臣会合を皮切りに、ドイツ各地でG7閣僚会合が続き、6月末のエルマウにおける首脳会合につながっていきますが、その殆どすべての会合に、ウクライナの閣僚がオンライン、もしくは実際に参加する形で、ロシアのウクライナ侵攻への対応も気候変動等と共に主要な議題として討議されました。
2.ロシアのウクライナへの侵略
ドイツをはじめ欧州諸国はロシアの侵攻開始直後から、矢継ぎ早に侵略国であるロシアに対する制裁を強化していくと共に、ウクライナをあらゆる面で支援しました。ドイツも2月27日の日曜日に異例なことですが連邦議会を開催し、ショルツ首相は今の状況を「Zeitenwende(時代の転換)」と呼び、紛争地域には武器を輸出しないというドイツの従来の方針の例外としてウクライナに武器を供与すると共に、1000億ユーロの特別基金を基本法上の債務ブレーキの例外として設置し、国防予算をNATOの目標であるGDPの2%以上にすることを目指す(注:現在は1.5%前後)と明言しました。同時に、エネルギーの面では対ロ依存を早急に縮小すべく努力すると共に、そのためにLNGガスターミナルを建設することを明らかにしました。他方、ドイツ国民はドイツ全土で数十万人に及ぶウクライナからの大量の避難民の受け入れを開始しました。我が国もG7の一国として対ロ制裁に参加すると共に、ウクライナに対し人道支援を行うのみならず、これまでの方針の例外として自衛隊の有する防弾チョッキ、テント等の非致死性の装備品を供与し、また、日本に避難を希望するウクライナ避難民を千人以上受け入れています。
ドイツにおいては特にロシアへのエネルギー依存が大きな課題となり、石油と石炭についてはEUとして禁輸を決定し、年内にゼロにするべく大きな方針転換を行いました(注:石油についてはハンガリーの反対でパイプラインは禁輸対象から除かれましたが、独はポーランド等と共に、自主的に禁輸を決めました)。天然ガスについても開戦前55%だった対ロ依存度を自主的にノルウェー、オランダ等からの輸入を増やして30%以下まで引き下げましたが、ドイツ政府は対ロ依存から脱却できるのは2024年夏頃としています。そうした中、ロシアは6月以降ドイツに対する天然ガスの供給量を削減し、当初6割減とした後、7月から8割減として揺さぶりをかけており、冬に向けてエネルギー供給と価格についての不安も高まっています。これまでのところ、厳しい対ロ姿勢を変更すべしとの議論は大きくはなっておらず、その一方で、物価の高騰の影響を受ける低収入層への支援が強く求められています。
また、ウクライナへの武器輸出、特に重火器の輸出を巡り、4月以降、連立与党の緑の党とFDPが早期の供与を強く求めるようになる中で、自走対空砲や自走榴弾砲の供与は行いつつも、ウクライナが当初から求めている兵員装甲車マーダーとレオパルト戦車の供与について、社民党内に慎重な声もあり、まだ実現していないため、ウクライナのみならず、ポーランド、バルト三国からも批判され、ドイツ国内でも大きな議論を呼んでいます。米英のメディア、有識者にも批判的な見方が多く、その背景には欧州でドイツが強いリーダーシップをとるべきとの期待があるようですが、ドイツは軍事的な面でリーダーシップをとること、欧州でドイツが突出することにはまだ慎重な考えもあるようです。
3.日独間の要人往来
このような状況の中で、4月28日、ショルツ首相がG7議長国首相としてアジアで最初の訪問国として日本にお見えになり、そのこと自体をメッセージとしても発出し、岸田総理もこの訪問を高く評価しました。首脳会談においては当然ながらロシアのウクライナ侵攻への対応と、今年のG7議長国であるドイツと来年の議長国である日本の間のG7での協力が主たる議題となりましたが、防衛面での協力も含め、自由、民主主義、法の支配等の価値を共有する日独の二国間関係の強化の必要性についても改めて確認されました。また、ショルツ首相には約10名の経済人が同行し、日本側経済人と共に両首脳との会談が行われると共に、翌29日のショルツ首相の千代田化工の水素プラント視察にも同行し、水素が日独間の協力の主要分野として強く認識されました。
その後、日本からはG7の会議のために閣僚としては牧島デジタル大臣(デュッセルドルフ)、林外務大臣(シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州のバルト海岸)、鈴木財務大臣(ボン)、そして岸田総理(バイエルン州エルマウ)が訪独し、それぞれ独側カウンターパートとの間でも二国間会談が開催されました。また、政府以外でもドイツ労働総同盟(DGB)がL7会合を開催し、芳野連合会長が訪問されています。
二国間訪問としては、5月に独国防省ツィンマー事務次官が訪日され、鬼木防衛副大臣及び槌道防衛審議官と会談されました。また、7月に吉田陸上幕僚長が訪独され、マイス陸軍総監と会談されました。
7月10日から11日にかけてはベアボック外相がインドネシアで開催されたG20外相会合の帰途、長崎と東京を訪問され、原爆資料館を視察されたほか、林大臣との外相会談に加えて、小林経済安全保障担当大臣とも会談されました。
4.内政面
今年前半は3月末にザールラント州、5月8日にシュレスヴィヒ=ホルシュタイン(SH)州、同15日にノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州の州議会選挙が行われ、ザールラントではこれまで大連立政権で副首相を務めてきたレーリンガー女史(社民党)が単独過半数で勝利し、SH州とNRW州では現職のCDU州首相が勝利しました。10月にはニーダーザクセン州で選挙が予定されています。
私はリントナー財務大臣(自由民主党)をはじめとする新政権の閣僚、政務次官に表敬した他、1月13日にはクレッチュマー・ザクセン州首相(CDU)、3月21日にはチェンチャー・ハンブルク州首相(社民党)を表敬しました。
また、ミュラー前ベルリン州首相(社民党)が今会期の独日議連の議長に就任し、7月4日に議連メンバーを公邸にお招きしました。
5.経済面での動き
3月1日から日本政府はコロナ対策の水際措置を緩和し、一定の条件を満たした日本からの渡航者の帰国後の自宅検疫義務を原則免除したことにより、ビジネス関係の往来が再開しており、上述したような背景もあり、水素や再生可能エネルギー関係を中心に今後の協力強化が期待されます。そうした中、7月13日、ジェトロのミュンヘン事務所の開所式行事が2年越しでようやく開催され、アイヴァンガー・バイエルン州経済相、ライター・ミュンヘン市長、ジェトロ佐々木理事長の出席を得て、私も出席し、挨拶をさせて頂きました。
経済面ではエネルギー価格の高騰により、既に開戦前に5%前後に上昇していたドイツのインフレ率が、一時的に小麦や食用油が店頭から消えるなど、食料価格の上昇も加わり、最近は8%近くまで上昇し厳しい状況にあります。ドイツの連邦・州政府、個々の企業が、エネルギー危機を含むこの苦境を国際社会との協力により早期に乗り越えることを期待したいと思います。
また、ニーダーザクセン州と同州の日系企業関係者による白馬会という交流行事も6月に3年ぶりに、アルトゥスマン副首相兼経済大臣の出席も得てヴォルフスブルクで開催され、私も加藤ハンブルク総領事と共に出席してまいりました。
6.文化・人物交流面での動き
ドイツにおいてコロナの感染予防措置が徐々に緩和される中で、2月5日にはエッセンのフォルクヴァンク美術館において、同博物館100周年記念行事として、松方コレクションに由来する日本の国立西洋美術館の作品も展示して、仏の印象派画家展が開催されました。シュタインマイヤー大統領が出席され挨拶を行い、私も岩間デュッセルドルフ総領事と共に出席しました。また、ベルリンではこれまでダーレムにあった個人の収集物を集めたサムライ美術館が、5月に中心部に開館し、私もオープニング式に出席しました。さらには7月14日、森鴎外の没後100年を記念して森鴎外記念館を運営しているフンボルト大学で記念行事が開催されています。
日本でも上述したフォルクヴァンク美術館の収集物を、6月からは国立西洋美術館で展示しておりますが、それに先立ち、ザクセンの美術館が所有するフェルメール展が2月から日本の四都市で開催されて好評を博しており、コロナで2年近く中断していた文化面での交流がようやく再開しつつあります。
また、過去二年間開催できなかった行事が徐々に再開されるようになっており、5月27-28日にはフランクフルトで独日協会連合会総会が開催されました。
7.コロナ感染予防措置とその緩和
この冬もコロナの猛威のために、昨年に続き、新年賀詞交換会、天皇誕生日レセプションを開催することはできませんでしたが、4月以降、感染者数の減少を踏まえて、公共交通機関等でのマスク着用義務を除き、ほぼ正常化しつつあることは喜ばしいことです。ベルリンでは6月後半から7月前半にかけて、各州の代表部でサマーフェストが開催され、私もメクレンブルク=フォアポメルン、テューリンゲン、ラインランド=プファルツ、バーデン=ヴュルテンベルクの夏祭りに招いて頂き、それぞれの州首相と挨拶を交わすことができました。
上述したとおり、3月1日からの水際措置の緩和で、外国人についても一定の条件を満たしたビジネスマンや研究者、留学生等の訪日が可能となると共に、6月から個人観光客を除き、団体観光客の受け入れも再開されました。ただ、7月以降、日独両国、特に、日本においてコロナの新規感染者数の増加が顕著となり、初めて20万人を超える事態となっており、コロナ前のような完全な往来の自由化には至っておらず、日本に入国する人の現地出発前72時間以内のPCR検査等の義務も継続しています。今後一刻も早くコロナ感染者数が減少に転じ、状況が落ち着いて水際措置のさらなる緩和への動きが再開することが期待されます。
8.今年後半の見通し
ロシアのウクライナ侵攻の帰趨と、ドイツにおけるエネルギー供給の安定が、当面最大の関心事と思いますが、ドイツのG7議長国は年末まで続き、9月半ばにはG7都市開発大臣会合、貿易大臣会合、下院議長会合が予定されており、11月には2回目の外相会合と、内相会合も開催予定です。
スポーツ面で日独の最大の関心事は11月23日に予定されるサッカー男子のワールドカップ・カタール大会の一次リーグ最初の試合で、ワールドカップ史上初めて日本がドイツと対戦することだと思います。7月に一時帰国した際に見た日本のサッカー中継では、常にこの点が意識されていました。ブンデスリーガ(1部)ではフランクフルトの長谷部選手、鎌田選手、シュトゥットガルトの遠藤航、伊藤両選手、ウニオン・ベルリンの原口選手、ボーフムの浅野選手などが活躍していますが、今季はさらにシャルケに吉田麻也選手、メンヒェングラートバッハに板倉選手、フライブルクに堂安選手が加わります。これらの選手の多くが加わる日本代表チームには、4度のワールドチャンピオンであるドイツの胸を借りるつもりで、頑張ってくれることを期待しております。
令和 4年(2022年)8月
在ドイツ日本国大使館
特命全権大使 柳 秀直
在ドイツ日本国大使館
特命全権大使 柳 秀直